菅義偉首相とバイデン米大統領が16日午後(日本時間17日午前)、ワシントンで会談し、同盟強化の「具体的な方途」の検討を加速することで合意した。日米両国が戦略環境の変化に直面しているためで、首相は会談後に発表した共同声明について「今後の日米同盟の羅針盤となる」と位置付けた。バイデン政権は米軍の戦略や態勢の見直しを進めており、長期的には日米の役割分担見直しや日米防衛協力の指針(ガイドライン)改定も見通される。
会談後の共同声明では、日米双方が抑止力とともに、抑止が破綻した場合の対処力を強化することで合意した。日本の防衛力強化を明記し、米国による「核の傘」提供を含む拡大抑止に関しては、新たに「強化する」との文言も盛り込まれた。
だが、今回の会談では具体的な日米の役割分担見直しに踏み込まなかった。両政府は外務・防衛担当閣僚による安全保障協議委員会(2プラス2)を年内に開く予定で、首脳会談はそこへ向けたキックオフと位置づけられる。
今回の首脳会談に先立ち、首相は繰り返し「日米同盟の強化」を口にしてきた。歴代首相の決まり文句ともいえるが、今回の会談ではそれだけにとどまらない意味を持つ。
バイデン政権は国家安全保障戦略の策定や米軍の世界的な態勢見直しを進めている。日本側も集団的自衛権の限定行使を可能にした安全保障関連法を整備したほか、敵基地攻撃にも活用できるスタンドオフミサイルの導入を決めている。
いずれも中国の軍拡や北朝鮮の核・ミサイル開発など日米を取り巻く戦略環境の変化に促された結果だ。特に最近では米インド太平洋軍司令官が台湾有事の可能性に言及している。日本政府当局者は「司令官は台湾有事を抑止する責任者であるにもかかわらず、抑止の失敗に言及したのはそれだけ危機感が強いということだ」と受け止める。
戦略環境の変化に伴う日米双方の態勢見直しは同盟のあり方にも影響を及ぼす。ただ、トランプ政権は中国、北朝鮮に対する力の誇示に意欲的だった一方で、日本政府高官は「日米の役割、任務、能力について腰を据えた協議をする環境になかった」と振り返る。それだけに実務者の積み上げを重視する「菅・バイデン時代」への期待は大きい。
焦点となるのは、在日米軍を含むインド太平洋軍の見直しだ。米軍は小規模部隊を分散して中国のミサイル網に的を絞らせない戦略構想を描いており、中距離核戦力(INF)全廃条約の失効で可能になった地上配備型中距離ミサイルのアジア配備も目指す。
日本側はスタンドオフミサイルなど独自の中距離ミサイルを配備することで、自衛隊と米軍の相乗効果を図るが、そのためには日米の緊密な協議が欠かせない。棚上げ状態となっている敵基地攻撃能力の保有に関しても、協議が進展する中で再浮上する可能性がある。
原文出處 產經新聞