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中国からボロ硬貨1万5千枚 入金拒否訴訟で見えたヤミ金脈


中国から安く購入した大量の日本円硬貨の預け入れを拒否され精神的苦痛を受けたとして、顧客が銀行側に現金の入金と1円の慰謝料を求めた訴訟があり、大阪地裁・高裁はいずれも銀行側の妥当性を認めた。持ち込まれたのは、ボロボロに痛んだ100円硬貨など1万5746枚。海外から中国に届いたごみの中からリサイクル業者が探し出したものを、額面以下で落札したとみられる。警察は硬貨は「真正」と鑑定したが、それでも顧客は敗訴した。なぜなのか。

マネロンの懸念
「自分の口座に硬貨を入金したい」

令和元年5月、大阪市内の大手銀行の支店を訪れた中国籍の男性は、窓口でこう依頼した。

ぐにゃぐにゃに折れ曲がったり、焦げたりしたものも含まれた硬貨。職員らは1万5764枚の確認作業を行い、1万4867枚、計174万1950円分を入金した。残る897枚は本物だと判別できず、支店で預かることになった。

個人が、これほど多くの痛んだ硬貨をどうやって手に入れたのか。男性の主張によると、中国には世界各国からごみが持ち込まれ、それをリサイクル業者が購入。硬貨が混ざっていた場合には別の業者がそれを買い取り、まとめて売買している。男性は中国のフリーマーケットアプリを通じて、実際の額面よりも安い値段で落札したという。

犯罪収益の可能性がある-。疑念を抱いた銀行側は男性に対し、入金を留保した硬貨を大阪府警に提出し、鑑定してもらうよう求めた。成分鑑定の結果、硬貨は偽造されたものではなく「本物」。ただ中国には捜査権が及ばないため、入手ルートが適法か違法かは判断できないとされた。

銀行側は、これらの硬貨がマネーロンダリング(資金洗浄)に利用されている懸念が残るとし、これ以上の入金は断った。

ATMに硬貨を大量投入
しかし、問題はこれで終わらなかった。

10月に再び、同様のルートで手に入れたという大量の硬貨を持って窓口を訪れた男性は入金を断られると、7日間にわたりATMに計130万9千円分の硬貨を投入。複数のATMを占拠し、機械トラブルを起こしたこともあったという。

こうした事態を踏まえ、銀行側はついに男性の口座自体に取引制限をかけ、一切の現金入金ができないようにした。

男性は、硬貨の入手経緯を説明したのに入金を断るのは不当で、現金取引を全て停止するのは過度の制限だとして、大阪地裁に提訴。この銀行には、マネーロンダリングのおそれがあると判断した場合、現金での入出金などを制限できるという規定があり、今回の対応がそれに当てはまるか否かが争点となった。

昨年12月の地裁判決は、「一般的な取引内容とはかけ離れた取引」にもかかわらず、男性の説明が不十分だったと指摘。対応は規定に従った適正なもので、広い制限もやむを得ないと判断、男性側の訴えを棄却した。今年5月には大阪高裁も地裁判決を支持。男性側は判決を不服として上告している。

なぜ中国に…

AFP通信やロイター通信の報道によると、欧州では、損傷したユーロ硬貨は金属スクラップとして中国に送られる。こうした硬貨が中国国内で集められ額面より安く売られ、再び欧州に持ち込まれる事例も確認されている。

一方、日本では損傷した硬貨は日本銀行が回収し、使えなければ造幣局が鋳潰しており、担当者は「回収した硬貨が国外に出ることはない」と説明。大量の痛んだ日本円硬貨が中国に集中する理由は「分からない」という。

法廷に提出された証拠でも、男性がやり取りしたという中国業者の実態は不透明なまま。男性は少なくとも数万枚を購入していたとみられ、日本国内には中国籍の「同業者」がほかにもいるとの証言もあったが、信憑(しんぴょう)性は定かではない。

ある銀行関係者は「こんなビジネスは初めて聞いた」と驚く一方、「金融機関ではマネーロンダリング対策が重視されるようになり、現金の入金については特に厳しく確認している。疑わしければ、直ちにリスク部門に相談する態勢を取っている」と話している。

原文出處 讀賣新聞