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抜海駅存続論争再び 稚内市廃止方針


住民反発「地域の象徴

稚内市が日本最北端の無人駅・JR宗谷線「 抜海ばっかい 駅」の廃止方針を決めたことが今月明らかになり、地元住民が反発している。市は、利用客が少なく「地域の足」としての役目は終わったと判断したが、住民からは、鉄道ファンらを魅了し「地域のシンボル」でもある駅を守ろうと、存続を願う声が上がる。最北のまちの秘境駅を巡る存続論争が再燃している。(中尾敏宏)

「何度でも訪れたい」「いつまでも残っていて」。趣ある木造駅舎に置かれた「抜海駅ノート」には東京や愛知など全国からの旅人の惜しむ声が並ぶ。ノートは少なくとも2003年から置かれ、現在21冊目だ。

1924年6月に開業した抜海駅は、吉永小百合さん主演の「北の桜守」(2018年)など数々の映画やドラマでロケ地となった。利尻富士を望む日本海沿岸にも近く、ドライブで立ち寄る人も多い。

一方、平日は上下7本の列車が止まるが、周辺地域の過疎化が進み、日常的に使う客は数人にとどまる。40人ほどが住む抜海地区からは約2キロ離れており、冬場は吹雪で運休になることも多く、生活路線としては不便だとの声もある。

JR北海道は2019年に廃止方針を示し、21年度からは市が維持管理費約100万円を負担する「自治体管理駅」として存続していた。

市は、今年度限りでの廃止を決め、今月7日、地元町内会に通告。21日の市議会定例会で一般質問に答えた工藤広市長は「地域振興や観光振興の話ではない。結論の先延ばしではなく、交通弱者の足を守ることを優先したい」と述べ、バスやタクシーなどを活用して持続可能な交通体系を検討するとした。

抜海駅ノートを読みながら存続への気持ちを強くする森さん(手前)と伊東さん
 これに対し、地元・抜海町内会の森寛泰会長(59)は「市には駅を残そうという思いが感じられず、廃止の結論ありきだ」と憤る。

森さんらは24年の抜海駅開業100年に記念事業を行おうと、昨年クラウドファンディングを実施し、目標の200万円を上回る238万円を集めた。経費などを差し引いた余剰金12万円は駅の維持費として市に寄付を願い出たが、回答はなかった。そんな中で市から廃止方針が示されたことに、森さんは「全国からの支援の声は届いているのか……」と肩を落とした。

駅近くの民宿「ばっかす」を営む伊東 幸みゆき さん(54)は駅や地域の景観に感動し、東京から約20年前に移住。駅を訪れる多くの観光客を迎えてきた。伊東さんは「駅には全国の旅人の思いが詰まっている。駅は列車が止まるからこそ価値がある」と力を込める。

市は「住民の理解を得たい」としているが、議論は歩み寄りが見られないまま、駅の存廃に関するJR北への回答期限とされる今月末を迎えようとしている。

原文出處 讀賣新聞