中国の核戦力の脅威が格段に高まっていることが分かった。岸田文雄首相には危機感を持ち、米国が提供する核抑止態勢(核の傘)の信頼性を高めてもらいたい。
米国防総省が中国の軍事力に関する年次報告書を公表し、中国が2030年までに少なくとも千発の核弾頭を保有する意向を持っている公算が大きいと強調した。
昨年の同じ報告書では、200発台前半(当時)が30年までに400発になると見積もっていた。今回は、大幅に上方修正した。
今年の報告書は、中国が、大陸間弾道ミサイル(ICBM)、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)、空中発射弾道ミサイル(ALBM)からなる、中国版「核の3本柱」を構築した可能性も指摘している。
令和3年版防衛白書によれば、ロシアの核弾頭は約4300発、米国は約3800発、中国は約320発だ。中国は英仏両国をわずかに上回る程度だったが、米露に対抗して核戦力の大規模な増強に走り出したことになる。
中国外務省は米報告書に反発した。だが米国防総省は、中国が建設したICBM用地下式格納施設や戦略爆撃機の開発計画などから割り出したとみられる。
中国は音速の5倍以上の速さで飛行する極超音速兵器を開発中だ。米報告書は、中国が極超音速兵器を搭載できる新型中距離弾道ミサイル「東風17」を実戦配備したことも明らかにした。
注意すべきは、中国の核の脅威は米国のみならず、日本にも及ぶという点だ。
日本は自国への核攻撃を、米国に核報復してもらうという「核の傘」で抑止している。だが、核戦力を増強した中国が、日本を核攻撃しても、米国は米本土攻撃におびえて核報復する可能性が低いと判断したらどうなるか。核の傘の信頼性が損なわれ、日本国民の安全は低下する。
「核兵器のない世界」を目指す岸田首相が核軍縮外交を進めるのは当然だが、達成は容易でない。首相には、核軍縮外交と並行して国民が核の惨禍に見舞われず、核攻撃の脅しにもさらされないように努める責務がある。
日米首脳会談や、日米両政府間の核抑止に関する「拡大抑止協議」を通じ、核抑止を確かなものにすることが急務である。
原文出處 產經新聞