9月中旬、中国不動産大手・中国恒大集団の経営危機を伝えるニュースが、衝撃的な見出しとともに世界を駆け巡った。
中国の国内総生産(GDP)の2%にあたる約2兆元(約35兆円)もの負債を抱えることになった中国恒大集団と、創業者である許家印氏の実像を伝える連載です。初回では、許氏が生まれ育った農村を記者が訪れて、中国一の不動産会社を築き上げるまでにいたった許氏のルーツに迫ります。
負債総額約35兆円。巨額の負債を抱えた恒大が経営破綻(はたん)すれば、2008年に世界を大混乱に陥れたほどの金融不安に発展するのでは――。こうした懸念が高まり、世界は身構えた。
私は、すぐに支局がある上海から南部の広東省に飛んだ。同省深圳市の中心部にある恒大の本社ビル前に着くと、警察官が盾を構えて警備する厳戒態勢が敷かれていた。
その前週には、恒大のマンションや金融商品を買った人たちが本社ロビーに押しかけ、抗議の声を上げていた。
恒大の2020年の売上高は5072億元(約9兆円)。日本の不動産大手5社の売上高の合計をはるかに上回る。これほどの繁栄を極めた巨大企業が、なぜ危機に陥ったのか。私には、わからないことだらけだった。
カギを握るのは、創業者の許家印(63)だ。恒大を一代で築き上げ、かつて中国一の富豪にもなった。だが、IT大手アリババの創業者、ジャック・マー(馬雲)らと比べると世界的な知名度は低い。
彼の半生をたどれば、中国の不動産業界が発展した理由や、恒大が直面する危機の本質をより深く理解できるのではないか。そう考え、私は9月下旬、彼が生まれ育った河南省の農村を目指すことにした。
田舎道とトウモロコシ畑を抜けると
省都・鄭州市の空港から車に乗った。高速道路を降りてからは、対向車がようやくすれ違えるほどの田舎道が続いた。舗装状態は悪く、数日降り続いた雨で所々に泥水がたまっていた。
両脇には見渡す限りのトウモロコシ畑。地元出身の運転手は「ここは普段は雨量が少なく、気候が水稲栽培には適さないんだ」と説明した。
約2時間半後、聚台崗村に着いた。中国メディアの記事を調べ、ここに許の実家があることまではわかっていた。
ところが村に入る道路に柵が置かれ、車の進入を妨げていた。
原文出處 朝日新聞