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失った恋心と200万円 わな仕掛けチャーリーを追った


「運命の人」だと思っていた相手からのメッセージは、ある投資への誘いだった。送金すると、連絡はそれっきり。そんな被害がコロナ禍の国内外で増えている。「誰でも被害に遭う可能性がある」という「わな」にはまった女性が、朝日新聞の取材に自身の体験を語った。ただ一点、ほかの被害者と違うのは、女性が犯罪者に「わな」を仕掛け返したことだった。

香港在住のはずが アプリの表示は20キロ先

記者は今年3月、東証1部上場の大手企業で管理職を務める40代女性に都心の喫茶店で話を聞いた。200万円を失ったきっかけについて話し始めた女性が記者に見せたのは、あるスマートフォンのアプリだった。

アプリは「Tinder(ティンダー)」という。「世界最大級のソーシャル系マッチング(出会い系)アプリ」をうたい、スマホの位置情報をもとに世界の人と知り合ってメッセージを交換することができる。

画面に表示されるのは、相手の名前や写真、年齢に加え、居場所(現在地からの距離)だ。日本人男性が多い中で、ひときわ女性の目を引いたのは「チャーリー」と名乗る男だった。「香港在住のイタリア人」を自称していたが、女性の関東地方の住まいから20キロほどの距離にいると表示されていた。

無精ひげに筋肉質、ファッションモデルのような容姿のプロフィル写真に「こんな格好いい人もいるんだ」とすぐに気に入った。背景に見覚えがあるロンドンの風景が映り込んでいた。男から英語でメッセージが届いた。

女性は「私もロンドンが好きです」などと返信した。LINEのIDを交換し、互いの趣味や日常生活の話を交わすようになった。

「香港在住」のプロフィル通り、民主化運動に関する話題を盛り込むなど、知的なやり取りもまた魅力的だった。ただ、女性が住んでいる場所から「20キロ」と表示された距離が気になった。男は、日本人女性と出会いたいため、アプリの有料会員向け機能を使って居場所を調整したと説明した。

返信もまめだった。知り合って数日後には「愛している」「君と一緒に暮らしたい」などと繰り返すようになった。このころには、LINEに着信通知が届くたびに女性の心は躍っていた。

マッチングアプリを介して恋人や結婚相手を探すことは、欧米では珍しいことではない。日本でも若者を中心に広がっているが、かつて「出会い系」に関連した犯罪が社会問題化した背景から、どことなく後ろめたい、言い出しづらい意識がつきまとう側面もある。

女性は海外暮らしが長く、語学も堪能。マッチングアプリを通じた出会いに違和感はなかったという。

男はやり取りの中で、社会的な信頼につながるような情報や、裕福そうな生活の一端が垣間見える画像を何度も送ってきたという。家族や友人、香港の住民であることを証明する顔写真付きの身分証。そして高級腕時計や豪邸、装飾品の写真もあった。

男は自らを医療機器メーカーの役員で、趣味は暗号資産(仮想通貨)の投資と語っていた。

原文出處 朝日新聞