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旧統一教会の高額献金、返金請求放棄させる「合意書」…山上容疑者も母親と署名


安倍晋三元首相の銃撃事件をきっかけに、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の「霊感商法」や「高額献金」に批判が集まっている。同連合は「コンプライアンス宣言」を出した2009年以降、法令順守を徹底してきたとし、問題は過去のことだと強調している。

しかし、全国霊感商法対策弁護士連絡会(全国弁連)は、今も元信者らから多くの相談が寄せられているとし、「形を変えて、被害は続いている」と反論している。

コンプライアンス宣言後も138億円分の相談

今月10日、銃撃事件後2度目の記者会見を開いた家庭連合の田中富広会長。冒頭の約40分間、一方的に文書を読み上げる形で強調したのは活動の正当性だった。

旧統一教会は1980年代以降、不安をあおって高額な 壺つぼ や印鑑などを売りつける霊感商法が社会問題となり、2009年に印鑑販売会社社長の信者が逮捕された。この事件を機に、コンプライアンス宣言を出し、当時の会長が辞任した。

田中会長は09年を「分岐点」とし、「信徒に社会的に問題となる行為をしないよう指導してきた」と主張。民事訴訟が減少していると強調し、霊感商法については「過去も現在も当法人が行ったことはない」と言い切る場面もあった。

この主張に、全国弁連は真っ向から反論している。

全国弁連によると、全国の消費者センターに寄せられたものを含め、霊感商法や高額献金に関する被害相談は1987~2021年に3万4537件約1237億円分に上る。09年の宣言後は減っているが、10~21年でも2875件約138億円分の相談があった。銃撃事件以降、月数件程度だった相談件数が、1か月で100件を超えたという。

全国弁連は「被害が表面化しないよう巧妙になっている」と指摘する。

「返金請求しない」約束する姿撮影も

東日本に住む60歳代の女性は、夫と子どもを亡くし、趣味を通じて出会った女性信者から「先祖の因縁が原因」と不安をあおられ、13年に旧統一教会に入信した。生命保険を取り崩すなどして600万円以上を献金したが、経典を強引に買わされたことに納得できず、15年に約200万円の返金を求めた。

その際、交わした「合意書」には「ほかに債権債務のないことを確認する」と書かれ、女性は言われるままに署名し、返金された。

女性はその後、脱会し、全国弁連に相談して経典代以外の献金の返金を求めて17年4月に東京地裁に提訴した。裁判で、家庭連合側は合意書を根拠に返金義務はないと主張した。しかし、20年2月の地裁判決は「(合意書は)何の説明もなく請求権を放棄させるもので、公序良俗に反しており、無効」と退け、ほぼ全額の返金を認め、確定した。

全国弁連によると、こうした合意書が目立つようになったのは09年の宣言以降。合意書に加え、信者が返金を求めないことを約束する様子を家庭連合側がカメラで撮影するケースもあるという。

全国弁連の佐々木大介弁護士は「返金請求を困難にさせる狙いなのは明らか」とし、「不安をあおって献金を求める体質は変わっていない」と語気を強める。

家庭連合は読売新聞の取材に「合意書は09年の宣言前から交わしていた。後でトラブルにならないよう記録に残すためだ」と話した。

「全国統一協会(教会)被害者家族の会」にも、家族の脱会支援などを求める相談が急増している。21年度は56件だったが、7月は1か月間で94件に達し、8月は100件超の勢いだ。「事件をきっかけに相談した」という声が多く、信者の両親から生まれた「2世」からの相談も目立つという。

国も9月初めから1か月間を「集中強化期間」とし、家庭連合に関する相談に対応することを決めた。

家族の会の担当者は「被害に遭っていると言いたくても家族との関係などを考えて言えない人も多い。手厚い支援が必要だ」と話している。

山上容疑者も母とともに署名

合意書は、逮捕された山上徹也容疑者(41)(殺人容疑で送検)の母親(69)とも結ばれていた。

親族によると、母親は自宅を売却するなどして総額約1億円を献金し、2002年に破産。親族が旧統一教会側と協議し、05年から返金されるようになった。

合意書は、コンプライアンス宣言の2か月後にあたる09年5月に作成された。その時点で返金済みだった1760万円を含めて14年10月までに計5000万円を返金する内容で、「ほかに債権債務がないことを相互に確認する」との文言があった。母親のほかに、山上容疑者の署名もあった。

家庭連合は取材に「和解の際に債権債務がないことなどを確認する条項を入れるのは一般的にある」とした。

原文出處 讀賣新聞