ペロシ米下院議長の台湾訪問を受けて、中国が台湾周辺での軍事演習を始めるなど事態はエスカレートしている。習近平(シーチンピン)国家主席の決断なくしてはあり得ない強力な対抗措置だが、習氏は「台湾有事」を想定しているのだろうか。
ペロシ氏を乗せた要人輸送機が台北に到着した2日夜から、中国軍は動き始めた。間もなく東部戦区が軍事演習を始めると発表。3日もペロシ氏が台湾での日程をこなす中、同戦区は軍事演習に参加した爆撃機やミサイル駆逐艦の写真を次々とSNSの公式アカウントに発表し、威圧した。
中国軍が台湾周辺へ向かう動きは、台湾側も報じた。台湾メディアによると、防空識別圏(ADIZ)に進入した21機の中国軍機の姿が確認されたほか、アジア最大級の1万トン級の排水量を誇る055型大型ミサイル駆逐艦2隻が台湾東部の花蓮港からわずか37カイリ(約70キロメートル)の距離まで近づいたことが分かった。
こうした動き以上に衝撃が広がったのが、中国軍が国営新華社通信を通じて発表した、4~7日に実施するという軍事演習の区域だ。台湾の周辺をぐるりと囲むように六つの範囲を設定し、期間中に空海域に進入しないよう警告した。
一部は台湾が主張する領海が含まれるほか、日本の排他的経済水域(EEZ)と重なる部分もある。「海の憲法」とも呼ばれる国連海洋法条約は他国のEEZ内での軍事演習を禁じていないが、58条には「沿岸国の権利及び義務に妥当な考慮を払うものとする」との文言もある。松野博一官房長官は3日の会見で、「実弾射撃訓練という軍事活動の内容も踏まえ、中国側に懸念を表明した」と明らかにした。
近年、中国が軍事演習を理由に設定する航行禁止区域は、大陸に近い沿岸部にほぼ限られる。台湾周辺での演習区域の設定は極めて異例だ。これには、今回の事態に一歩も引かないという中国側の姿勢とともに、過去の失敗を繰り返さないという強い決意が見てとれる。
原文出處 朝日新聞