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オウム被害の滝本弁護士はなぜLGBT条例に反対か


性的少数者(LGBT)運動が盛り上がる中、埼玉県議会で自民党議員団が提出したLGBT条例案が議論を呼んでいる。男女の性別は生まれつきの性別ではなく、本人が決めるべきだという「性自認」の考え方などが「極端だ」と指摘されているためだが、中でも弁護士の滝本太郎氏は「女性の権利を侵害する」「性の無政府主義だ」と強く批判する。オウム真理教などカルト問題をライフワークにしてきた滝本弁護士が今なぜ、LGBT条例案に厳しい言葉を語るのか。真意を聞いた。(菅原慎太郎)

「女性の権利を侵害する」
――条例案に批判的な理由は?

「性別は自分で決めることができるという性自認の論理は問題がある。『多様性を尊重』『差別してはならない』というのは一見、いいことを言っているようだが、現実的には『女性』と自称する男性も社会は女性として扱わなければならないということ。例えばその人が女性トイレに入るのも認めなければならないということになる。これは女性の権利を無視し、安全・安心を脅かしている」

「海外ではトランスジェンダー女性(生まれつきの性別は男性、性自認は女性)が女子スポーツで他の女性選手を上回る成績を記録したり、女性刑務所で性トラブルを起こしたりしていることが問題となっている。同種の条例は他の自治体にもあるが、4月には英国で首相が問題是正に乗り出す姿勢も示しており、埼玉県議会は条例制定すべきではない。おそらく最終的には国の法律を作ろうというのが、性自認を掲げる『トランスジェンダリズム』の運動だろう。しかし、行き着く先はフェミニズムの終焉(しゅうえん)。昔は女性トイレはなかったが、女性運動でできた。そうした女性を守る仕組みが次々となくなれば、フェミニズムの成果も理念も骨抜きになる」

性自認の論理は「性の無政府主義だ」

――トランスジェンダリズムは「右派・保守派が批判している」といわれるが、フェミニズムはどちらかというと左派的な思想。政治の左右は関係なく批判すべき問題ということか

「本当にそうだね。これが大問題なのは、女性・男性の定義を変えてしまうから。自分で性別を決められることになると、生まれつきの性別を原則とする今の医療や統計、社会制度はめちゃくちゃになる。『性の無政府主義』だ。最後は崩壊せざるを得ないと思う」

――性同一性障害(最近は「性別不合」とも呼ばれる)の人たちは、こうした運動をどう考えるか

「私が知る団体の人たちは『迷惑な話だ』と言っていた。例えば性同一性障害の男性は自分に男性器があることに身体違和があり、これに苦しむ。その治療として性別適合手術があるのだが、トランスジェンダーの人には身体違和がない場合が多い。しかし、こうした運動は性同一性障害も『広義のトランスジェンダー』と呼び、一緒のものとして運動する。性同一性障害の人も考えはさまざまだが、運動が崩壊したとき、反作用で性同一性障害への偏見が強まることが心配」

――条例案には同性婚のような同性パートナーシップも盛り込まれている

「同性愛は自由だし、ほかに迷惑をかけるわけでもない。私は同性婚は認めていいと思う。ま、これについては、性自認の論理に反対する仲間の中でもみんな意見が違うけど」

――同性婚を認めないのは憲法違反と考えるか

「それについては違憲だとは思わない。憲法はもともと同性婚を想定していなかったし、婚姻を『両性の合意』で成立すると定める。男女がカップルになるのが自然だからでしょう。ただ、法律で同性婚を認めることは憲法は禁止していないと思う。同性愛では子供ができないから結婚は認められないというが、高齢者の夫婦も子はできない。子供ができようとできまいと、兄弟姉妹の間の結婚を認める人はいないだろう。同性婚への違和感が低くなってきたのなら法律で認めてもいいのでは」

カルトと闘った弁護士がなぜ?

――あなたは無差別テロや坂本堤弁護士殺害事件などを起こしたオウム真理教と闘い、自身も命を狙われた弁護士。カルト問題に詳しいイメージだが、なぜ今回のような問題に取り組むようになったのか

「友人の坂本弁護士が突然いなくなったことをきっかけにオウム事件と関わった。以来、カルト問題に対応することになったが、カルトは外部の人間との議論を遮断するなど、さまざまな問題があることを知った。昨年8月、性自認の問題点に気づき発言を始めたところ、いきなり『差別だ』『黙れ』と議論を封じようとする人たちがいた。これはおかしいと」

――LGBT問題に深く関心を持ったきっかけは

「昨年5月に、自民党の『LGBT理解増進法案』の国会提出が見送られたこと。私は性的少数者への『理解増進』の理念はいいことだと思うから、反対する自民党議員には批判的だった。ところが、その後、インターネットやSNSで、『法案』を支持する人たちには法制化すればトランス女性も女性トイレに入れると『公認』されると考える人が結構いることに気づき、これは問題だと」

「私もトランスジェンダーに同情するし、尊重すべきだと思う。仕事で差別されたり、日常生活で揶揄(やゆ)されたりすることはあってはならない。しかし、トイレなど女性スペースに入れるようにするかは別問題で、慎重な議論が必要だ。そう思ったから、同じ考えの女性たちと『女性スペースを守る会』という団体をつくったが、反発を受けている。メンバーは氏名をネット上で明かされる『身バレ』攻撃や電話などの嫌がらせを受けている。私は弁護士としてその防波堤役をしているつもりだ」

■埼玉県のLGBT条例案 性の多様性尊重を理念に、自分を男性と認識するか女性と認識するかなどの「性自認」や性的指向による不当な差別的取り扱いを禁じる。県議会で審議中で7日に採決の見通し。

原文出處 產經新聞