50日に及ぶロシアのウクライナ侵攻は、なお予断を許さない状況が続く。事態は今後、どのように展開していくのか。昨年末、軍事侵攻の可能性を予言した米ジョンズ・ホプキンス大のエリオット・コーエン教授に尋ねた。
「プーチン氏が戦略の大家だとは思いません」
――2022年の世界を「ジェットコースターに乗った状態」と予測した昨年のインタビューで、プーチン大統領によるウクライナ侵攻の可能性を指摘していました。ウクライナはこれからどうなりますか?
ジェットコースターは、大きな急降下をしたところですが、この先、何回の急降下があるかは分かりません。私は66歳ですが、この戦争(ロシアのウクライナ侵攻)はおそらく私の人生で最も重要な戦争となる。結果にもよる面もありますが、欧州のみならず、アジア、世界秩序にとって記念碑的なできごとになるでしょう。
――欧州にとどまらない重要さとは?
この戦争は第一に欧州の安定にとてつもなく重要な意味を持ちます。それにとどまらないのは、隣国による侵攻で国を破壊される事態に直面した際に、国の存在を守る権利があるのか、という問題が改めて提起されたことです。
自由な人々が自分たちの生存権のために戦い、自由を勝ち取ろうとしている姿は、私たちの心を揺さぶります。世界中の国々で人々が鼓舞されている。ロシアが苦戦する姿は、中国をはじめとする国には警告にもなります。
――米国、欧州にとっての意味は。
米国が指導力を示し、欧州各国が目覚めたことも重要です。イラク戦争で大量破壊兵器に関する誤った情報を提供して以降、米国の信用は大きく傷つきました。
バイデン政権には批判もありますが、今回、ロシアの動きに関する機密情報の発表の方法は見事でした。米国は真実を語っていると受け止められたのです。その結果、ロシアに対応する有志国の大きな集団ができ、欧州諸国の結束が強まり、アジア諸国も巻き込んだ。昨年8月のアフガニスタン撤退時の米国の失敗を思うと実に印象的です。
欧州側で言えば、ドイツが安全保障政策を百八十度転換し、国防費を国内総生産(GDP)比で2%以上に増やす方針を示したことは驚異的です。北大西洋条約機構(NATO)の拡大にもつながる変化で、現にフィンランドやスウェーデンがNATO加盟に動いています。
原文出處 朝日新聞