台湾の蔡英文総統が今月下旬、中国国民党一党独裁時代の元総統、蔣経国について「中国共産党と妥協せず、台湾を守った」とたたえたことが波紋を広げている。与党の民主進歩党が「外来政権の代表」と蔣に批判的な一方、野党の国民党支持者には今も蔣を尊敬する人は多い。蔡氏はあえて蔣を評価することで、中国の脅威に対抗するため台湾全体の結束をアピールしようとしたとみられる。
蔡氏は22日、台北市内にあった蔣の公邸「七海寓所」をもとに整備された文化施設「経国七海文化園区」の開幕式に出席した。国民党の馬英九前総統らが列席する中、蔡氏は演説で蔣について「北京当局の軍事的、政治的圧力に直面する中で台湾を守った」と強調。蔣の歴史的評価については「人民が決めるべきだ」とし批判を控えた。
蔣経国は中国から台湾に渡った元総統、蔣介石の長男で、1978年から88年死去まで総統を務めた。在任中、インフラ整備や経済発展を重視したほか、のちに民主化を進めた李登輝氏を後継者に指名するなどし、台湾社会の発展に役割を果たした。
一方で蔣経国は民主派勢力を弾圧した。79年12月に雑誌「美麗島」の編集者らを逮捕、投獄したことは「美麗島事件」と呼ばれ、その後、事件の被害者家族と弁護士らが中心となり民進党を結成した経緯があった。そのため民進党支持者には蔣を批判する人が多い。
これに対し、国民党は蔣を台湾の発展に大きく寄与した「偉人」と位置付け、支持者の大半は「将来的には中国と統一すべきだ」と蔣と同様の立場をとっている。
ただ、国民党も中国共産党への態度では意見の相違がみられる。中国が台湾への圧力を強める中、馬氏らが「中国共産党と良い関係を築き、対立を緩和させるべきだ」と主張するのに対し、党内には「反共を貫くべきだ」との声もある。昨年12月、国民党員だった著名な評論家、于北辰氏は「今の国民党は反共精神を忘れた」として離党を宣言し、国民党内の対立が鮮明になった。
蔡氏の演説にはそうした国民党支持者を分断させる狙いがありそうだ。台湾メディアによると、蔡氏は演説前、原稿に10回以上手を入れる一方、「蔣による人権弾圧も入れるべきだ」との周囲からの進言を受け入れなかったという。
原文出處 產經新聞