ベンチャー企業「リリーメドテック」CEOの東志保さん(39)の武器は、数々の修羅場をくぐり抜ける中で身につけた「マウントに負けない力」だ。起業の世界は想像以上に男社会だったが、今春、創業からわずか5年で「痛くない」検診装置の販売にこぎつけた。
母が亡くなり、父も急死、遺産相続問題も……
高校に入学してすぐ、母に、10万人に1人の確率という悪性の脳腫瘍(しゅよう)が見つかりました。医師からは余命1年半と宣告されました。
「おそらく延命措置にしかならない」と言われる開頭手術を受け、その影響で言語障害が出て半身不随に。
抗がん剤のせいで髪の毛も抜け落ち、明るかった母は別人のようになりました。
治療は結果として、母を苦しめるだけでした。
介護を続けるうちに家族関係も悪くなり、「医療って何のために存在しているんだろう」と、無力感を覚えました。
宣告通り、私が2年生のときに、母は46歳で亡くなりました。
目の前に大学受験が迫っていましたが「医療の道にだけは進むまい」と、大学では物理を、大学院では航空宇宙を学びました。
ところが博士課程進学直後に、今度は父が急死したのです。
父は母が亡くなった後に再婚したのですが、その親族との間で、思いもよらぬ遺産相続問題に巻き込まれました。
精神的にも経済的にもあまりにもストレスが大きく、結局、大学院は辞めざるを得ませんでした。今でも悔しいです。
心機一転、就職した計測機器メーカーでは、頑張って出世しようと決めました。
ただ「創業以来、初の女性開発者」と言われ続け、周囲を見回しても男性しかいない環境です。
高圧的で野心家な上司ともウマが合いませんでした。
そんなとき、大学院時代に結婚した夫から「ぜひ、起業する会社のCEOになってほしい」と猛烈な勧誘を受けたのです。
理系に進み、男性が多い環境で生きてきた東さんにとっても、起業の世界は想像以上の「男社会」でした。「女は占いが好きだから、占いで大事なことを決めるよね」「女って男のことばかり考えているよね」。記事の後半では、こんな偏見との闘い方を伝えます。
原文出處 朝日新聞