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子どもが犠牲になっているチョコ、知っていますか? つなぎ役の奮闘


世界の子ども(5~17歳)の10人に1人にあたる1億6千万人が大人のように働いていて、教育を受ける権利や健やかに成長する機会を奪われている。児童労働と呼ばれる問題で、チョコレートの原料となるカカオの栽培はその典型例だ。

その背景には、根強い貧困問題がある。

日本で使われるカカオの8割近くを生産する西アフリカのガーナで、農家の収入を増やそうと奮闘するカカオ専門商社「立花商店」(本社・大阪市)取締役の生田渉さんに聞いた。

――カカオ農家が貧しいのはどうしてですか。

カカオ豆がチョコレートになるまでには長い工程があります。関係する多くの人たちがそれぞれ取り分を取るなか、生産者の分はごくわずかなのです。1枚百円だとしたら、6円60銭しかありません。一方で小売業者は税金の支払いを含めて約44円、メーカーは約35円を得ています。

農産物ですから天候に影響を受けます。加えて先物取引の対象となっているので、マネーゲームのしわ寄せも受けてしまう。農家にまったく関係のないところで、作物の価格が左右されるのです。不公正そのものです。

――どうやって農家の収入を増やそうとしているのですか。

ガーナでは政府機関がカカオを一定の価格で買い上げているので、最低の所得は保障されています。ただ、その価格がとても安い。

加えて収穫した後に発酵や乾燥といった手間のかかる作業があり、生産性も低いため、農家の暮らしは厳しい。付加価値があれば買い取り価格が上がるので、有機栽培の豆の販路を広げています。

ドイツのベンチャー企業と協力して、国内で完成品のチョコレートも作り始めたところです。有機栽培によるフェアトレード商品(公正な取引だという認証を受けている商品)は通常のものより高くなりますが、欧州にはそういう商品こそを買いたいという消費者がたくさんいます。

――農家の収入を増やして子どもが学校へ通いやすくすること以外に、児童労働の問題で取り組んでいることはありますか。

村人と協力して児童労働をなくす活動をしている日本の国際協力NGO、ACEの活動を手伝っています。

産地を特定したカカオの買い付けが難しいなか、ACEが支援している村で栽培されたカカオを日本へ持ってきています。そうしたカカオを使う意味をわかってくれる会社や職人さんたちと、ACEをつなぐこともしてきました。

児童労働の問題は、現地では見えにくいのも事実です。首都から遠く離れた農村部に多いのですが、ただ行っただけではわかりません。村にしばらく滞在してようやく「あれ、あの子は学校へ行っていないのかな?」と見えてくるような問題なのです。それだけにACEの活動は貴重です。

――どうしてガーナでカカオを取り扱うようになったのですか。

最初に就職した大手商社でナッツを扱うなかで、たまたまガーナとの取引の話に行き当たったのが始まりです。カリフォルニアのアーモンド農家は裕福でした。アーモンドは農家の取り分が最も多く、大規模経営に成功しているからです。カカオ農家はまるで違います。「おかしいじゃないか」という思いが、今の仕事の原点になりました。

失敗や苦労を重ねるうちに、現地事情に通じるようになりました。ガーナの生産者の状況を改善するためには中小企業の方が動きやすいと考え、立花商店に移りました。社内では流通を通じて課題を解決する「社会的商社」の旗振り役をしています。転職の判断は間違っていませんでした。

――「社会的商社」の役割とは何ですか。

単なる売り買いを繰り返すだけなら、「社会的商社」とはいえません。日本の取引先に生産国の問題を詳しく伝えたうえで、状況がよくなることにつながる取引を提案していきます。今はコロナで往来できませんが、産地と交流する機会も作っていきたいです。

ここ3年ぐらいで児童労働への関心が広がり、時代が変わったように感じています。SDGs(持続可能な開発目標)ができて、日本でも知られるようになったことが大きいと思います。

児童労働に関係していないか。農家は公平な取り分を得ているか。「顔の見えるカカオ」にこだわる消費者が増え、それに応えようと多くの企業の行動が変わっていくチャンスです。つなぎ役の私たちの出番も増えると思います。

原文出處 朝日新聞