白鳥建二さん(52)は生まれつき右目が見えず、左目は強度の弱視だった。小学校の黒板の字もよく見えない。通知表は5段階評価の1と2ばかり。小3で盲学校に転校し、その後の10年余りを過ごした。
「見える人に負けないように」
「見えなくてもちゃんと仕事ができるように」
「社会は厳しい。健常者の何倍もの努力を」
家族や先生からは、繰り返し激励された。21歳で卒業するまでに、マッサージの資格を取得した。
でも、「見えることが正しく、見えないことは悪。見えない人は健常者より劣っている」と言われ続けている気がして、ずっと息苦しかった。
美術館デートで気づいた「もしかして」
「もっと広い世界を知りたい」。
卒業と同時に地元の千葉県を離れ、愛知県の夜間大学に進んだ。視力はさらに下がり、やがて全盲になった。
ある日、付き合い始めた1学年上の彼女とデートをした。
行き先は、レオナルド・ダビンチの解剖図展を開催していた美術館。見えない自分には無縁の世界だと思っていたのに、どういうわけか心が弾んだ。
でも一体、何が楽しかったのだろう。
好きな人と一緒にいられたからか。いや、もしかして全盲でも美術鑑賞ができるのか。
「見えている人」も見間違う?
数カ月後、後期印象派の展覧会を訪れた。
「真ん中に湖があって、木があって」
そう案内していた男性職員が、しばらくして「よく見ると、黄色い点々が真ん中にある。湖ではなく原っぱでした」と謝ってきた。
原文出處 朝日新聞