8月5日夜、台北市中心部にある老舗の広東料理店が約80日ぶりに営業を再開した。
しかし、当局による新型コロナウイルス対策の規定により、いろいろと制限があった。普段は10人が囲んで座るテーブルは、座席の間隔をあけるため5人しか座れない。テーブルの上には一人ずつのスペースを区切る透明の仕切り板があり、料理も大皿を皆でシェアする形でなく、自分の分を食べる「定食スタイル」だ。
店の8つの個室はすべて埋まった。訪れる人にとって、乾杯することもできない寂しい会食だが、それでも客らは喜んでいた。同僚と久しぶりに食卓を囲んだという貿易会社経営の男性は「首を長くしてこの日を待っていた。外食できることは、コロナにわれわれが打ち勝った証しだ。台湾万歳!」と言ってコップのビールを呷(あお)った。
台湾のコロナ対策本部は10日の定例会見で、この日の域内の新規感染者数が3人だと発表した。8日以降、3日連続で新規感染者数が一桁に抑えられた。5月中旬に感染が急拡大し、連日のように500人超を記録した時期と比べて隔世の感がある。台北の街には今、にぎわいが戻りつつある。
台湾がコロナ蔓延(まんえん)を押さえ込めた要因は複数ある。まずは人同士の接触を徹底的に抑制したことだ。当局の指示により、5月中旬以降、屋台を含む店での飲食は全土で禁じられ、映画館や理髪店なども休業となった。小中高大など全ての学校は登校停止となった。2週間とされた措置はその後、4度も延期され、8月初めまで続いた。
スマートフォンの位置情報を使った「監視システム」の導入も大きな役割を果たした。交通機関や商業施設などを利用する人に、追跡アプリのQRコードを読み取ってもらい、市民の活動範囲をおおむね把握した。6月には、南部の屏東(へいとう)県で感染力の強いインド由来の変異株(デルタ株)の流行が確認されたが、感染した人の接触者を「監視システム」で素早く確認し、隔離したことによって感染拡大を防いだ。
不要不急の集まりは禁止され、その違反者は厳しく処罰された。地元メディアによると、高雄市でゲームセンターに勤務する男性が6月中旬、6人の友人を自宅に招き、ささやかなパーティーを開いた。居間で談笑していたところ、隣人の通報を受けた警察官に踏み込まれた。全員がマスクをしていなかったこともあり、その場にいた7人はそれぞれ6万台湾元(約24万円)の罰金を科された。これは、ゲームセンター勤務の若者の約2カ月分の収入にあたる。台湾の世論はこうした厳罰を支持する声がほとんどだ。
厳しいコロナ対策によって、生活の影響を受けた人は多かった。台湾の立法院(国会に相当)は5月末、新型コロナ対策特別予算の上限を8400億台湾元(約3兆3300億円)に引き上げることを可決した。低所得世帯への生活補助金を追加したほか、自営業者、日雇い労働者、タクシー運転手などには1万~3万台湾元(約4万~12万円)の手当を交付し、市民の不満を和らげた。
台湾は4月まで、厳しい水際対策で感染者を少なく抑え、「防疫の優等生」と国際社会から高く評価されていた。5月に一時、感染が拡大したものの、約2カ月間の効果的な対策で新規感染者を1日数人まで減らし、危機管理能力の高さを再び証明した。与党・民進党の幹部は「今、唯一の心配はワクチンの接種率がまだ4割未満ということだ。これからはワクチンの確保に全力を挙げたい」と話している。
原文出處 產經新聞